医療法人翠十字 杜都千愛病院

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H29年度症例報告会を実施しました

本院では、患者・利用者様へのケアの質を向上させることを目指し、新しいアプローチ方法を常に模索しております。また、その経過を症例報告会にて公開しております。
H29年度の症例報告会にては、以下の10題について発表させて頂きました。

①ブロック折り紙をとおした生きがいづくりと交流を図る取り組み。

ブロック折り紙をとおした
生きがいづくりと交流を図る
取り組み

医療法人翠十字
 老人保健施設 杜の倶楽部
介護リハビリ係
古川淑恵 橋本麻美
【はじめに】
本症例では、施設生活に無気力で、自室に引きこもりがちな入所者様に対し行った作品作りを通した生きがいづくりと交流を図る取り組みについて報告する。
【症例】
S・H様、女性 88歳。転倒にて胸椎圧迫骨折、再度転倒にて胸椎圧迫骨折。
今後在宅は困難とのことで平成28年9月14日当施設入所。日中、臥床し余暇活動へも参加せず食事や入浴の拒否、起きてもやることがないからと日常生活において問題がみられていた。
【目標】
日中臥床せず作業、余暇活動に参加する事、他入所者様と交流を図り安心で楽しい施設生活を送る事、作業を通し達成感、生きがい感じて頂く事を目標とした。
【方法】
作業にはブロック折り紙を選んだ。理由は折り方は1種類の単純作業、短時間でも作れる、ご本人様に合わせ目標設定ができる。このような理由からブロック折り紙を作業として選んだ。
【経過】
ブロック折り紙の提案、S・H様からの了承を得る。本の折り方を見て、職員とは一緒に折ることができたが一人で折る事はできなかった。そこで細かく折り方をまとめた「折り順表」を作成。それをもとに作業をして頂いた。以前よりスムーズに折ることができるようになり、一人でも折ることができるようになる。だが未完成、折り間違えたパーツが多くみられた。また同テーブルに一緒に折り紙を折れる方がいないため作業が職員とS・H様だけとのやり取りになってしまった。
一緒に作業していると「折り順表」の説明文に対し「反対側も折る」→「ああ、隣も折ればいいのね」、「下に広げる」→「頭を下げればいいのか」とにS・H様とってわかりやすい言い回しがあることに気づく。そこで「折り順表」の説明文をS・H様にとってわかりやすい言い回しにその都度手直しし、S・H様のみでも、折り紙を完成させることができるようになった。
また折り紙を折れる方と同テーブルになるよう席替えし、他入所者様にもブロック折り紙を勧めてみることにした。職員だけとではなく、入所者様同士での会話を交えた作業を目指していった。
【結果】
S・H様が一日に折るパーツの数、自席で作業する時間も増えていき、同テーブルの方と楽しそうに話し込む姿も見られるようになった。そして小作品、「茄子」を完成させ現在は、大作「ふくろう」を作成中。同テーブルの方2名も作業に参加され作品作りに取り組んでいる。
【まとめ】
こまめな傾聴・観察を行い、入所者様の様々なニーズに気づき、それを実現すべく実践してく力を養う事が介護力アップに繋がっていくことを実感した。今後もより多くの入所者様の笑顔を引き出していけるよう介護力をアップしていきたいと思う。
②ハッピーファミリーデイの取り組みについて。

ハッピーファミリーデイ
の取り組みについて

医療法人翠十字
老人保健施設 杜の倶楽部
栄養課 管理栄養士
今紀仁 柴山絵里 武田真由美
【はじめに】
当法人ではご家族様に少しでも多く来ていただけるよう、夏祭り、バスツアー、敬老会、ハッピーファミリーデイ等の行事、企画に取り組んでいる。その中で、ハッピーファミリーデイとは、イベントや食事会を通して、入所者様とご家族様が直接触れ合うために設けている日のことである。具体的にはお誕生日会や歌や踊りのイベントが開かれるが、今回は栄養課と関わりが深い誕生日会の取り組みについて紹介する。
【ハッピーファミリーデイの目的】
・食事を通して特別感を提供      ・非日常的な雰囲気、会場作り
・入所者様、ご家族様の思い出作り   ・交流の場の提供
【実施内容】
・食事を通しての特別感…月に1回提供している特別食(行事食)をご家族様へも提供している。食事を通して会話が弾むよう、季節感、月の行事、味、盛り付け等に注意している。また、洒落のきいた献立名を付け話題作りとしている。
・非日常的な雰囲気、会場作り…普段は配膳車用のお盆にメラミン食器を使用するが、参加者には普段使うことが難しいランチョンマットや陶器やガラスの器を使用する。テーブルクロスを引き、入所者様が生けたお花を飾り華やかな雰囲気の会場を作っている。
・入所者様、ご家族様の思い出作り…参加者に誕生日カードを用意している。お祝いのメッセージや当日の集合写真を貼り、思い出を形として残している。
・交流の場の提供…入所者様とご家族様だけでは無く、職員やご家族様同士の交流の場としても活用している。食事中に職員はテーブルをまわり、食事の感想や入所者様の普段の様子などの会話をし、情報共有を行う。また、食事介助を目の前で行うことで介助に対する安心感を持って頂く。
【結果・考察】
参加者からは“母が喜んでいる姿を見てありがたい”“一緒に食事することが出来て楽しかった。”等の感想を頂いている。特別食は月一回の豪華な食事としてだけではなく、話題の提供や会の雰囲気を盛り上げるものとして様々な役割を持つ為、献立作成の際は「こんな会話になるかなぁ」等と当日の様子を思い浮かべながら、考えることも必要と考える。
【まとめ】
家族で食事を囲むことは家に居た時は日常的なものだが、施設では非日常となる。お誕生会のように家族で食事を食べることで昔を懐かしみや家族とのつながりを再度実感できていると思われる。私達がどんなに良い介助をしたとしても、施設における入所者の孤独感はなくなることはないだろう。しかし、家族に勝るぬくもりや温かさは提供できないとしても、少しでも癒されるよう、今後もお誕生会を通して入所者様、ご家族様が集まれる場を提供していく。
③座位訓練による覚醒へのアプローチ :網様体賦活系を用いた事例。

座位訓練による覚醒へ
のアプローチ
網様体賦活系を用いた事例

医療法人翠十字 杜都千愛病院
リハビリテーション課 作業療法士
 大友博之
【はじめに】
当院では意識障害を伴い臥床傾向にある患者様が多いという特色がある。リハビリテーション内容の開示として御家族と面談させて頂いていると、「声が聴きたい」「少しでも反応してくれれば」といった希望が聞かれる。我々スタッフも日々みられるかすかな反応を御家族に伝え、御家族がそれを小さな希望として面会にくるといった様子も少なくない。在りし日の声が聴きたい、笑顔が見たい。意識障害は患者様本人のみならず御家族にも負担を強いる。そのため今回は意識障害に対するアプローチとして網様体賦活系を用いた事例を報告する。
【網様体賦活系】
網様体賦活系は中脳から延髄にわたる網様構造をした神経組織である脳幹網様体の興奮を視床を中継し大脳皮質に広く投射することで意識の保持に関与すると言われている。その網様体賦活系を活動させるためにはバランスのコントロールを必要とする場面を提供する。そうすることで網様体賦活系が活性化し意識レベルの改善に寄与する。
【症例紹介】
A様:80歳代 男性 H11.1 多発性脳梗塞 H16.11正常圧水頭症 V-Pシャント術2度施行
【方法】
座位:ベッド上端坐位 両肩支持し前後方向への重心動揺を加える
 評価:JCS使用
 頻度:3-5/w 一ヶ月間実施
 ※血圧変動によるリスクを考慮し血圧測定を実施前、姿勢変換時、以降五分毎に実施
  中止基準を設け該当する場合中止とする
【結果】
 JCSⅡ-20よりI-3と改善。
【考察】
網様体賦活系は中脳から延髄にわたる網様構造をした神経組織である脳幹網様体の興奮を視床を中継し、大脳皮質に広く投射することで意識の保持に関与すると言われている。端坐位という抗重力位でより積極的な網様体賦活系への刺激入力を行った結果、同経路の活性化に繋がり意識レベルが向上し各種反応がみられるようになったと考えられる。
【まとめ】
本症例は前施設に入所された頃からコミュニケーション困難とされていた。御家族としても毎日面会にきているが、反応を得ることはないだろうという認識であった。今回、網様体賦活系を用いたアプローチによって意識障害の改善が伺え、ご家族が数年越しに言葉を交わしたこと、表情、目線の変化を感じたことをお話しいただいた。維持期においても意識障害に対するリハビリの可能性を示唆する結果となりました。
④「役割」により社会性の向上が図れた一例。

「役割」により社会性の
向上が図れた一例

医療法人翠十字 杜都千愛病院
リハビリテーション課 作業療法士
菅原卓稲
【はじめに】
精神科作業療法の中で物を介して人と接する「役割」を与える事で、社会的振る舞いを再獲得し、暴言、拒絶等に改善が見られた症例の詳細を以下に報告する。
【方法】
精神科作業療法中、歌詞カードを配るという「役割」を与えた。必要に応じて療法士が介入トラブルを避ける。実施期間は6ヶ月、ケース:2名。理由:1名では自身が特異的な扱いを受けていると思うことが考えられる為
【症例】
・A様 診断名:アルツハイマー型認知症 性格:勝気で好き嫌いが激しい
  HDS-R:16/30点 MMSE:18/30点 ADL:概ね自立 移動:独歩
・B様 診断名:アルツハイマー型認知症 性格:明るい、サバサバしている
  HDS-R:23/30点 MMSE:25/30点 ADL:概ね自立 移動:独歩
【経過】
介入開始時、A様は、独語等の言動がある患者様、暴力的な患者様に対して拒絶する様子が見られ、依存の対象の女性患者様の隣席に自身が座るために、他患者様を押しのける様子が見られる。B様は、他患者様がレクリエーションに取り組む際に暴言、独歩が困難な患者様に対し、陰口が聞かれる。歌詞カードを配る際、A様は寝ている患者様を無理やり起こして歌詞カードを配り、B様は患者様に歌詞カードを押し付けている。介入から3か月後、ケース両者は指示理解の追いついていない患者様に療法士に相談するようになる。他患者様との談笑を交えて、歌詞カードを配っている様子も見られる。一方で、他患者様に対する暴言、批判、拒絶も聞かれ、たびたびトラブルがみられる。
【結果】
療法士が「歌詞カードを配ります。」との言葉を合図にA様は立ち上がり、B様は着席しながらも療法士に向けて手を伸ばすようになる。また他患者様との交流においても、A様は、他患者様の面倒を看るようになり、B様は、他患者様への暴言、批判的言動が見られなくなる。
【考察】
歌詞カードを配るという「役割」が、他者との自然な交流につながり、歌詞カードを通して「人から物へ、物から人へ」のコミュニケーションをとるようになったと考えられる。コミュニケーションにおける対人距離が適度に離れたことでA様は対人関係の回復、Bさまは社会性の向上に繋がった。
【まとめ】
本症例を通して作業療法における患者様への役割の影響について考える機会となり、集団作業療法を行う中で、「役割」を提供することで社会的振る舞いの改善に繋げることも作業療法に求められるのだと感じられた。今後は、患者様の社会性の向上を目指すなかで、今回学んだことを活かして参りたいと思う。
⑤通所リハビリテーションを利用する要介護高齢者の孤独感に関する研究。

通所リハビリテーションを
利用する要介護高齢者の
孤独感に関する研究

医療法人翠十字 杜都千愛病院
リハビリテーション課 作業療法士
 鍋倉実
【はじめに】
厚生労働省によれば65歳以上の人口は2042年の約3900万人でピークを迎え,その後も75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている。2025年には独居世帯が約700万,夫婦のみ世帯が約650万の推計になる。今日,高齢者の孤独が重要な社会課題になっている。高齢者の孤独感について,一般高齢者を対象とした報告や施設に入所している高齢者を対象とした報告はあるが,在宅で生活する要介護高齢者の報告はみられない。在宅で生活する要介護高齢者の孤独感についての研究が必要である。
【目的】
本研究では,通所リハビリテーション(以下,通所リハ)を利用する要介護高齢者の孤独感と孤独感に影響する要因について探索的に明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】
対象は当院の通所リハを利用する要介護高齢者で,調査協力の同意を得られた43名に面接による聞き取り調査を行った。調査内容は基本情報(性別,年齢,要介護度,利用中の介護サービスの種類,通所リハの利用予定と実績回数,疾患,通所リハの利用理由と目的,通所リハ以外に参加している活動の有無と趣味,家族形態,住居,学歴,睡眠の質,近所付き合いの有無と満足度),心理的,物理的サポートの有無,ADL,孤独感,認知機能,抑うつ度,主観的幸福感とした。ADLはBarthel Index(以下,BI),孤独感は日本語版UCLA孤独感尺度第3版(以下,UCLA3 ※添付資料),認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール,抑うつ度は日本語版Geriatric Depression Scale15(以下,GDS15),主観的幸福感はPhiladelphia Geriatric Center Morale Scale(以下,PGC-MS)を用いた。
【結果】
UCLA3の全対象者の平均得点と標準偏差は32.41±8.72点であった。統計的手法にて分析したところ,UCLA3得点と正の相関が認められた項目はGDS15であった。またGDS15と負の相関が認められた項目は,BI,PGC-MSであった。近所付き合いの有無の2群においてUCLA3得点に有意差が認められた。UCLA3得点を結果変数,その他の項目を説明変数として分析を行った結果,近所付き合いの有無,公営住宅,GDS15,物理的サポート(看病してくれる方)の有無の4つの要因が抽出された。
【考察】
本研究の結果より要介護高齢者の孤独感には,近所付き合いの有無,住居の種類,物理的サポート(看病してくれる方)の有無,抑うつ度が影響しており先行研究を支持する結果となった。通所リハを利用する要介護高齢者の孤独感の把握には,孤独感尺度の得点だけではなく,近所付き合いや心理的,物理的サポートの質的側面,抑うつ度や主観的幸福感,ADL,経済状況などを複合的に評価し,孤独感に影響する要因を理解する必要があると考える。
【まとめ】
通所リハ利用する要介助高齢者において考察における各要因の不足が孤独感を強めている。
⑥オムツいじりに対する衣類工夫の取り組みする研究。

オムツいじりに対する
衣類工夫の取り組み

医療法人翠十字 杜都千愛病院
認知症治療棟 看護課 ケアアテンダント係
茂木真由美 佐々木睦子 武藤まい
【はじめに】
オムツの装着方法、適正な枚数の使用、排尿サイクルに合わせた交換、皮膚状態や室温等の変化に配慮するなど基本的なケアを行ってきました。今回、オムツの装着の改善から視点を変え衣類の工夫を行い、その改善と軽減に向けた取り組み3つのケースをタイプ別に報告します。
【症例】
① K.N様: 64歳 男性 陰部に手を入れかきむしり、健側の手でオムツを外す行為あり。
T.M様: 87歳 女性 オムツ交換直後からトイレの訴え頻回でオムツを外す行為や脱衣更衣あり。
・患者様の体型に合わせたワンピースを手作りし、着用して頂くことでオムツいじりの軽減を図る。
② S.M様: 95歳 女性 極度の円背のため、ポケットの位置が認識できません。
・かぶり服に大きな胸ポケットを取り付け、パッドいじりの軽減を図る。
③ Y.S様:90代 女性 日中夜間問わず、衣類を引き裂きオムツを破る行為あり。
・手持ち無沙汰を解消し、意識を逸らすことでオムツいじりの軽減を図りました。
【原因の推察】
① 掻痒感や安心するという理由で、ズボンの中に手を入れる癖があると考えられる。
② 円背のためズボンのポケットがつぶれ位置が認識できず、トイレットペーパーを袖口や懐に入れるが持っていることを忘れてしまい身に着けているパッドに目が行き、パッドをちぎる行為に至ると考えられる。
③ 手持ち無沙汰から衣類を破る行為があり、その延長でオムツ破りに至ると考えられる。
【問題点】
① 夜間オムツいじりがあり、失禁の都度全更衣や寝具の交換を行うため、昼夜逆転傾向になる。
② 自席周辺にちぎったオムツやパッド等が散らかり、他患者様が拾って誤飲の危険性がある。
③ 自席周辺にちぎったオムツやパッド等が散らかり、他患者様が拾って誤飲の危険性がある。
【対策】
① ズボン型ポケットをの付いたワンピース:ズボンの中に手を入れた時と同じ安心感を持って頂く。
Tシャツとスカート一体のロングワンピース:裾のたくし上げに意識を向けて頂く。
② 大きな胸ポケットを付けたかぶり服を着用することでトイレットペーパーの在り処を知って頂く。
③ 手先が器用な患者様で衣類を引き裂く行為が見られたため、真逆の発想であえて阻止せず破けて
いる衣類を利用し、手遊びが出来るよう手直しを行い、破いたり結んだりができるようにした。
【結果】
① 脱衣更衣やオムツいじりの回数が減り、寝具交換の軽減に繋がり良眠。
② ポケットに横から手を入れられることでポリマーが散乱することが減少。
③ 手遊びすることで手持ち無沙汰が解消され、意識が逸れてオムツいじりがほぼ無くなる。
【まとめ】
オムツいじりをする患者様を理解し、創意工夫することで介助される側、介助する側双方に良い改善策に繋がったと思います。
⑦「また来たい」デイケアを目指して(継続的な活動の効果について)。

「また来たい」
デイケアを目指して

医療法人翠十字 杜都千愛病院
 介護リハビリ係
 大島佑子 小川雅之

【はじめに】
当デイケアでは、バスツアー・買い物ツアー・料理教室・お楽しみ会と数多くの行事を企画している。しかし、行事そのものが単発的で、その時だけの楽しみに終始してしまっている現状を何とか打開し、継続的な喜び、楽しみを持たせていきたいと取り組んだ事例について報告する。
【現状・問題点】
5月のお楽しみ会「菜園祭」。参加利用者は13名と少ない人数。会終了後の感想は「大変だったねー」「頑張ったねー」と植えた事への達成感のみで終わったように感じた。企画目的が反映されておらず、植物の成長記録、水やり当番制等、育てる過程においての楽しみを提供出来ていなかった。
【課題・改善方法】
企画を担当する職員が毎月担当制になっており、職員は企画の悩みや責任から、負担を感じていた。出来るだけ違った企画を追求するあまり、「何が目的の企画か」が置き去りになっていた。改善方法としては、基本的な事だが、不安・起案内容の悩みを一人で抱え込まない環境を整備する事にした。企画の目的は、それが楽しいだけでなく、楽しみとなるように全職員が意見を出し合い、企画の土台を作成する。また、職員・利用者様一人一人に役割をもたせ、全員で、お楽しみ会を少しずつ作り上げていくという考え方で企画を作っていく事とする。
【企画体制改善後の結果】
企画体制を整備して最初の企画となった夏祭りでは、「脳の活性化・季節感・親睦」と大きく3つの目的を設定し、内容を考え実施した。雰囲気づくり・盆踊り・催し物については、昨年の夏祭りを回想し反省点を改善して行った。
当日に向け、日々のレクリエーションに練習を組み込み、盆踊りやゲームでは、披露するため、勝つ為に練習を重ねた。練習の成果と当日のサプライズもあり、夏祭りは熱気と歓声で大盛り上がりとなった。夏祭り終了後には、利用者様・職員共に変化が見られ、双方にとって良い刺激となった。

【まとめ】
職員の企画体制を見直し実施した夏祭りは、夏祭りに向かって踊りやゲームを練習し、その成果を本番で発揮するという職員・利用者様一人一人が役割と目標をもって実施したからこそ楽しく満足感のあるものとなったと考えられる。一つ一つの行事を楽しんで頂く事と合わせ、行事のある日を楽しみにしてこそ毎日が「楽しい」と感じ、利用者様から「また来るね」という言葉が自然と出るデイケアづくりの必要性を感じた。
まだまだ課題は残るものの、デイケアの在り方を示してくれる良い経験となった。今回の経験を反省とし、「また来るね!」と言って頂けるように職員一同努めていく。
⑧栄養課の褥瘡改善への関わり(亜鉛強化食品の効果について)。

栄養課の褥瘡改善
への関わり

医療法人翠十字 杜都千愛病院
栄養課 栄養士
工藤 綾
【はじめに】
高齢者医療の根幹にある褥瘡改善に向けて、栄養士が医師、看護師と同様に褥瘡回診に入り、その治療経過に直接かかわっている当院の取り組みについて報告する。
【褥瘡回診】
褥瘡回診はどの病院でも実施されているが、当院では院長・看護師だけでなく、栄養士も同行することが特長的と考える。その理由として、褥瘡の治癒には患者様の栄養状態の改善が重要な役割を果たすと考えており、回診時に栄養士は写真撮影・記録の管理を行っている。
【栄養面での介入背景】
栄養管理計画書や、看護計画、サービス計画書を基にスタッフが協力して褥瘡改善へ取り組んでいるが、褥瘡治癒が長期化した患者様に、エネルギー量のUPやたんぱく質強化以外での栄養面からのサポートとして、亜鉛強化食品を取り上げた。
【介入目的】
亜鉛にはたんぱく質・核酸の代謝に関与し、皮膚や粘膜の健康を維持する効果がある。食事と共に亜鉛強化の補助食品を摂取することで、新陳代謝を活性化させ、褥瘡の改善に繋げたいと考えた。
【方法】
対象は、認知症病棟3階に入院中の、褥瘡が治癒するも再発し、長期化している患者様である。食種は流動食を提供し、朝・夕食事に亜鉛強化補助食品をプラスした。
【結果】
H28年7月8日より、亜鉛摂取を開始。介入開始時、対象者様は尾骨部Ⅳ度の褥瘡が発生しており、栄養状態として血清アルブミン値も2.7g/dlと低値であった。途中、肺炎を起こし食止めとなった為体重も減少したが、H29年8月15日に約1年1カ月の経過を経て治癒となった。対象者様は、平成26年6月4日の入院時より、褥瘡の再発を繰り返すなど不安定な状態だったが、今回亜鉛を強化することで、現在は再発もなく過ごされている。
【まとめ】
当院は、療養・認知症病棟と高齢者を専門とする病院である。従って、食事は一般食の中で嚥下食の割合が多く、療養病棟においては80%が経管栄養である。いわゆる食事という形態には程遠い状況と言える。栄養士=食事=楽しみといった概念では、高齢者医療の栄養士は目標ややりがいを見失ってしまうことも考えられる。しかし、当院の栄養士は褥瘡治癒に関る医療チームの一員としての役割を担うことで、やりがいや喜びを感じ業務に取り組んでいる。
当院のような高齢者を専門とする病院では、患者様においしいと言ってもらい、楽しそうに食事をする患者様の笑顔を見ることは少ないが、これからも、医療チームの一員としての誇りをもって、一人でも褥瘡が改善されるよう、栄養管理に努めていく。
⑨点滴管理から経口摂取へ移行できた一例。

点滴管理から経口摂取へ
移行できた一例

医療法人翠十字 杜都千愛病院
療養病棟 看護課 看護係
辻本由佳 原とも子 岡崎早苗
【はじめに】
家族さえも食べることをあきらめた点滴管理の患者様の、食べる意欲を表出させた行動から、認知症によるものではないかと気づき、その改善に取り組むことで、点滴管理から経口摂取へ移行できた例を報告する。
【症例】
対象患者様:84歳 女性 H10認知症 平成23、24年一過性脳虚血発作
ADL:点滴管理、自発語あるも、従命不確実。全介助に近い状態で臥床中心の為昼夜逆転傾向。
【経過】
入院時の摂食・嚥下評価では水分にムセあり、ゼリー等にはムセないも強い拒否が見られ経口摂取困難と評価。ご家族も食を諦め、中心静脈栄養希望され開始となる。しかし、入院2か月後から本人より「食べたい」と訴えあり再度嚥下機能評価を実施。結果、入院時より嚥下機能に改善見られ、経口摂取の希望を見込み、平日昼のみゼリー1個摂取開始となる。しかし食への訴え聞かれるも、開口しない、口にため込む等の認知症がある場合の特徴的な摂食行動、実行機能障害が見られた。これらの症状から認知症による症状が食事摂取に大きく影響していると考え徐々に食べる訓練をしていく方針となった。
【方法】
まずは、症例の食事の様子や療法士の評価などが一目でわかるよう個別ノートを作成し多職種での情報共有を図った。また、認知症状進行予防に漢字や計算ドリルの実施、離床の機会を増やし、離床後に車椅子自操を促していった。食事時は声掛けの統一、器の中を見せながら介助するといった資格からのアプローチ、環境に合わせ席の配置を考慮し行った。
療法士もSTは嚥下機能維持、誤嚥性肺炎の予防、発声促し、PT・OTは車椅子自操訓練や四肢の筋力増強訓練をし、ADL拡大を促した。
【結果】
食への意識も徐々に高まり、摂取量も安定され、またコミュニケーション能力にも向上が見られてきたことから、3か月後から昼のみ粥ゼリー、嚥下食1/5量提供となる。その後も摂取量の安定、全身状態の安定から3食提供、量の増加にも繋がっていった。しかし問題点もあり、その部分の解決策を実施してからは安定した摂取ができるようになり4か月後からは点滴も終了し経口摂取へ完全移行することができた。長谷川式に大きな変化はなかったが、食事・排泄・コミュニケーション・移動動作の面に大きな変化が見られた。
【まとめ】
認知症患者様への食事介助は個別の容態に応じて適時適切な最もふさわしいものを提供することが大切であり、患者様と介護者の毎日の積み重ねが食べる方向へと向かったと考える。
今回の症例で、家族は食に関して、あきらめてしまったが、本人の訴えを聞き逃さず、少しでも可能性があるかを見出し、個人に合わせた対応と根気強い関りがQOL・ADLの向上へとむすびついていくことを改めて学ぶことができた。今後も継続して常に働きかけていくことが、認知症患者様への対応として重要であると思った。
⑩離床により意欲とADLが向上した一例。

離床により意欲と
ADLが向上した一例

医療法人翠十字 杜都千愛病院
療養病棟 看護課 介護リハビリ係
斎藤裕樹 佐々木睦子
【はじめに】
一日を通し、ベッドで臥床されていた患者様へ離床を促し、意欲を引き出し、訴えを尊重し援助を行ったことで、トイレ排泄が習慣化し、ADLが向上した一例を発表いたします。
【症例】
対象患者様:81歳女性。H27パーキンソン病と診断。ショートステイ利用するも、経口摂取不良、拒薬も見られるようになり、H28.9に入院。ADLは全介助。
【経過】
食や離床に対し消極的だったが食欲増進、ADL・QOLの向上、廃用症候群の予防の効果に着目し、体調良好時から離床しテスト食から始めた。その後、段階的に離床機会、時間を増やしていくことで摂取量の安定を図った。
入院時はFr管理していた排泄だが、体調安定し抜去から訴え見られ、誘導開始するがいくつかの課題があった。その課題を解決しながら誘導を継続していった。
【方法】
体調良好時のテスト食からはじめ、徐々に経口摂取へ移行を進めていった。また、本人の訴えを組み込み本人のやる気を促していった。
排泄は、下肢筋力低下によるリスクを考慮し、2名介助、見守り徹底から実施した。その後、密な声掛けや協力動作を促すことで排泄をトイレ一本化すべく実施していった。
【結果】
入院から1か月半後に経口食が開始となり、その後も本人から「とろみのないお茶が飲みたい」等の訴えも聞かれるようなっていった。その訴えを解決していくことで、本人のやる気も増していき自力摂取量も増え、自力全量摂取できるようになった。
誘導回数の増加からオムツへの失禁もほぼなくなり、下肢にも力が入るようになってきたことで1人介助も可能となっていった。
【まとめ】
高齢者の介護は、廃用症候群を防ぐことが大切。廃用症候群は、ベッド上での過剰な安静による弊害とも言える。そのため、寝かせきりにしないことが重要。
今回の症例で、私たち介護職員は患者様の残されている機能は何か、どの様な動作が出来るのかをしり、それを生活動作へ参加させていけるよう援助していくことが大切なのだと、再認識した。
この事を念頭に置き、日々の業務に当たっていきたいと思った。
以上、一部でありますが、今年度の取り組みとして発表させていただきました。
以下にスライドの一部を掲載いたします。
今回も各種関係者の皆様など、多くの方々に参加していただきました。今回の評価を励みに、さらなるケアの向上に努めてまいりますので、よろしくお願いいたします。
※各題の詳細については、別途ファイルにて抄録として掲載いたしますのでそちらにてご覧下さい。

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